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【特集2】心の日本一がまたひとつ うどん文化を支えた水車が復活

心の日本一がまたひとつ うどん文化を支えた水車が復活

 雨の少ない香川県には多くのため池がある。昔はそこから流れる川に水車が回り、田に水を引き、動力としても活用された。最盛期は明治初期から中期とされ、県内に384基もの水車があったという記録が残っている。その動力で小麦をうどん用の粉に()いていたものもあり、讃岐うどん文化を担った生産機器でもあったのだ。

 今年3月、四国唯一の現存する製粉精米水車場で、全国でも最古級の「高原(たかはら)水車」が復元された。この水車も、かつては懸命にうどんの粉を挽いていた。

高原水車の写真
水輪の下段に勢いよく落ちるように導かれた水を受け、水車が回る。受け板の角度や水車と底樋の間隔の狭さ(1.5cm)、さらに水車の芯の胴木を固く締め、強度を高めて回転を確実に歯車に伝える「根がらみ」という部材などに、構造的特長がある。これらは少量の水でも大きい動力が得られる、雨の少ない香川ならではの工夫。交流のあった九州の水車大工と研究者が、香川の職人が造った水車の再現修復を担い、香川の若手大工に伝統技術の継承も行った。

水車が動力の木製オートメーション

 高原水車は、水車場(すいしゃば)と呼ばれる小屋の中で、水しぶきを上げている。小屋の中央で直径15尺(約4m55cm)の水車が回ると、歯車を通して動きが伝わり、挽き臼が回って粉を挽く。挽かれた粉はベルトコンベヤーのような搬送機を通って移動し、回転式のふるいにかけられる。細かく挽かれた粉は受け棚に落ちるが、挽きが不十分な麦はふるいに残り、さらに搬送機で運ばれて再び挽き臼にかけられる。水車の力でこの周回が自動的に行われ、数回繰り返すと製粉が完了する。

 水車も製粉装置もほぼ木でできており、さながら「木製オートメーション」。他にも製麺機など、いくつかの機械が滑車とベルトで水車とつながっていて、その道筋を指でたどりたくなる。残念ながら、修復され動いているのは水車のみ。機械はまだ眠っており、引き続き歯車などから修復が進行中だ。

 高原水車は江戸時代に、高松藩の御用水車として始まった。明治維新で民間に渡り、1902年に現在の持ち主である高原家の先祖が買い受けた。以来、水車で製粉・精麦・精米業を行い、うどんの製麺にも進出。1967年に坂出市の水車大工の手で新調された水車は、昭和の末ごろまで現役で動いていた。しかし、1990年に一部が壊れ、そのまま長い眠りについたのだ。

製粉装置作動図

ガンドの写真
「ガンド」と呼ばれるふるい機は、筒状に並んだ棒の周囲に絹布を貼って使う。筒の内側まで運ばれた粉を回転しながらふるい落とす。

用水路の写真
讃岐平野を流れる川のそばにあり、わずかな土地の傾斜を利用して用水路から引いた水を水車に落とし、石垣の水路から川に戻す。

解体した古い水車の写真
解体した古い水車も大切に保存。水輪は八つのユニットに分かれ、少しずつ重なり合うように丸く形成されていた。

情熱が動かした水車を地域の誇りに

 水車復活のシナリオは、2011年、瀬戸内海歴史民俗資料館が調査に入った事をきっかけに描かれ始める。当時は荒れていたものの、敷地、利水、機械装置、歴史の裏付けとなる文書資料までが良好な状態で残り、文化財として貴重である事が判明。所有者の高原家と、地元の識者や有志の間で復活の機運が高まった。中にはもちろん、讃岐うどんに携わる人たちもいた。

 2014年には「高原水車友の会」を設立。水車場の清掃や修理、資料の整理、埋まってしまった水路の掘り返しなど、地道で膨大な作業を、友の会のメンバーが何年にも渡り手弁当で行った。そのかいあって、2016年には国の登録有形民俗文化財に登録されている。

 「保存の方向性を考えた時、古い水車を解体して作り直すと決めた理由の一つは、近所に住む友の会のある方のひと言。『昔のように回る水車を見たい』という言葉に、みんなの心の中の水車も回り始めました」と、高原家の一員で「高原水車友の会」会長の平田恵美さん。

 念願の水車が動いた今、次の目標は、歯車と挽き臼の修復。隣接する畑で麦を育て、水車で挽いた粉を水車でうどんに製麺して、お世話になった方や来訪者に振る舞うのが、友の会の夢だ。さらに、文化活動など、水車が地域の持ち味となり誇りとなるような活用法を、若い世代に考えてもらいたいのだ、と言う。

 香川の人々の情熱で回る高原水車は、毎月最終土曜日に一般公開中だ。

友の会メンバーの写真
友の会メンバーの、高原家姉妹と水車を愛するご近所の方々。水車復活を望んでいた長男の急逝後、その遺志を継いで姉妹が実現。

高原水車(讃岐六条の水車)

「讃岐六条の水車及び関連用具」(水車1件、関連用具348点)として、2016年に国の登録有形民俗文化財となる。水車と関連用具が国の登録有形民俗文化財になるのは全国初。「丸亀うちわの製作用具及び製品」「東かがわの手袋製作用具及び製品」に続き、県内では3例目。

高原水車(讃岐六条の水車)の写真

高原水車
高松市六条町672
毎月最終土曜日
(12月は除く)
公開/10時〜15時