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【特集1】800組が躍動する獅子舞の王国

800組が躍動する獅子舞の王国
写真は、朝倉獅子連の獅子舞(木田郡三木町田中)。祭り当日は、親・子・孫の3頭の獅子が舞う。
他にも、全7組の獅子舞を奉納。10月7日(日)田中雷八幡神社

香川の秋祭りの主役は獅子舞である。
日本一小さい県に約800もの獅子組がひしめいて、
豊かな獅子舞文化を作り出している。
澄み渡る旅の空に、カンカカーンと高らかな(かね)の音が聞こえたら、
それが、獅子たちに出会う合図となる。

秋祭りは獅子競演の場

 香川県の獅子舞がいつ始まったかは、地域によって言い伝えが異なり定かではないが、近世から近代にかけて盛んになったようだ。昔の神社には、今でいう自治会のような氏子の集落が複数所属し、秋祭りには毎年交代で、神社が所有する獅子で舞を奉納した。ところが、農村の暮らしにゆとりが出ると、「わが集落の獅子を」と、獅子頭や、香川では油単(ゆたん)と呼ばれる胴部の布を独自に仕立て始め、秋祭りは、各集落の獅子による競演の場となった。その結果、最大で1200組もの獅子組が生まれたといわれ、現在でも全国屈指の約800組が存在している。

悪魔払い、豊作祈願の民俗芸能

 獅子は、悪魔払いの呪力を持つ架空の動物、インドのライオンがモデルとされる。獅子舞は、7世紀初頭に中国からわが国へ伎楽(ぎがく)の一部として伝来し、大社寺の法要で舞われた。中世以降は、後に伝来した舞楽(ぶがく)の獅子舞とともに地方の社寺にも波及。民間の芸能にも取り込まれ、次第に、悪魔払いだけでなく、豊作、延命の祈願としても舞うようになった。明治以降は神社を中心に奉納され、各集落で盛んに獅子舞を習い、娯楽色もある民俗芸能となっていく。香川の獅子舞の隆盛は、その典型といえる。

油単と鉦で目に耳に派手やか

 初めて香川の獅子舞を見る人は、まず鮮やかな獅子の胴に目を見張る。極彩色の武者絵の油単は、それだけで芸術的な見応えがある。独特の音色ではやすのは鉦。カンカンと甲高い音は、はるか遠くまで心地よく響く。

 しかし何より大きな特徴は、その数と多彩さだ。秋祭りでは、今もいくつもの獅子が舞い、姿も舞い方も多種多様。県の、東部・中部・西部という地域的な特徴に加え、集落ごとにも異なりバラエティーに富んでいる。伝承のされ方もさまざまで、昔の舞に重きを置く組も、時代と共に新味を求め変わっていく組もあり、それぞれが「われらが獅子舞」を慈しみ、過去から未来へと受け継ぐことに懸命だ。

 あまりに身近にあり過ぎたためか、地元は獅子舞の価値を見逃しがちであった。しかし、全国的な獅子舞の交流会や、2016年の瀬戸内国際芸術祭で、国内外から予想外の高い評価を受け、誇るべき民俗芸能という意識が高まった。その結果、各地の獅子組が活性化し、より面白みが増している。見るなら今の、香川の獅子舞。旅人がふらりと立ち寄れる、気取りのなさもいい。

取材・写真協力
讃岐獅子舞保存会
元瀬戸内海歴史民俗資料館副館長・専門職員 溝渕茂樹