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【香川から世界へ】世界に誇る文化[[希少糖]

世界的な知の財産「希少糖」国際希少糖研究教育機構の誕生

香川県は、「あん餅雑煮」で年が明けるほど、甘味が好きな土地柄である。例えば、江戸時代に生まれた「和三盆糖」からは、次々と上品な菓子やスイーツが作り出されてきた。それだけに、糖分の取り過ぎが気になる。そんな香川県で、今、作られているのが、カロリーとして吸収されにくいという「希少糖」。研究が進むにつれ「希少糖」には、さまざまな可能性が秘められていることも分かってきた。世界に先駆け「希少糖」研究をリードする香川大学を訪れ、副学長であり「国際希少糖研究教育機構」機構長の(かけひ)善行氏にお話を伺う。

40億年の時を経て

 生命誕生以前の地球では、多くの糖が存在していた。ところが、生命が必要なエネルギー源として選んだのは、植物によって生み出されるブドウ糖と果糖のみ。それらは、植物の光合成によって大量に作られ、現在は糖の最小単位である単糖と呼ばれるものの99・9%がこの二つである。残りの単糖は、長く人類にとって忘れ去られた「希少糖」であった。

 ところが、1980年代に香川大学農学部の何森(いずもり)健教授によって、果糖から希少糖を作り出す方法が発見され、さらに「イズモリング」という、いわば希少糖を作るための設計図のようなものが完成した。それにより、希少糖を使った研究が、ここ香川県で始まったのだ。

 生命が見捨てた希少糖は甘いにもかかわらず、細胞に吸収されずカロリーになりにくい。カロリーの取り過ぎが問題になる現代では、人類にとって役立つ糖と認識され始めた。さらに機能的な研究が進むと、医薬品、農業、工業分野でも活用できることが分かり、その応用範囲は急速に広がりつつある。例えば、コンクリートが固まるまでの速度を調整するためにも糖は使われている。これまでは、安全で安価であるという理由でブドウ糖を使ってきたのだが、希少糖はまた違った作用を及ぼす可能性がある。こうなると、学部の壁を越えての研究が必要だ。そこで、香川大学が世界に呼び掛け誕生したのが、「国際希少糖研究教育機構」であった。

 「40億年も息を潜めてきた希少糖には、生命の起源を解き明かす鍵が握られているかもしれない。そこで、NASA※をはじめ、世界規模で幅広い分野の研究者や企業が希少糖に熱い視線を注ぎ始めました」と筧機構長は語る。

※NASA:アメリカ航空宇宙局

国際希少糖研究教育機構のメンバーの写真
香川大学は、研究成果を国際展開するため、全学体制の新組織である「国際希少糖研究教育機構」設置した。国際展開部門では、英国・オックスフォード大学、米国・フロリダ大学など、また欧米の大学との共同研究の推進とともに、ブルネイ・ダルサラーム大学、タイ・チェンマイ大学などのアジア諸国との共同研究も進め、さらなるグローバル展開を目指している。

希少糖発祥の地から世界の拠点へ

 世界を席巻しつつある希少糖研究であるが、そのスタートは地味なものであった。開発者の何森教授でさえ、全く未知数の研究に未来はないかもしれないと考えていた。ところが、ベルギーの教授から、国際バイオテクノロジー学会で研究成果を発表してはどうかとの連絡があり、研究続行を決意。さらにフィンランドの教授から共同研究の申し入れがあり、「国際希少糖学会」の設立につながった。そして、2016年4月の「国際希少糖研究教育機構」立ち上げにより、これまで以上に世界との情報交換が活発になり、よりグローバルな議論や研究が可能になった。

 その一例として、2016年秋にかがわ国際会議場で開かれた「国際希少糖学会」のスペシャルプログラムでは、「希少糖は、糖なのか?」という根本的な問題が、世界的な各界の代表者で議論された。この結果、希少糖の栄養表示は、糖類・糖質とは別のカテゴリーに表示すべきという結論に達した。糖の枠組みから飛び出すことで、さらなる可能性が広がる。

 「知的財産を守るためにも、中長期的な研究を公表できないのが残念ですが、希少糖には驚くほどの未来パワーが眠っています。そして、希少糖に関わる以上、世界的な学者や企業も、香川県の地を踏まなければなりません」と筧機構長。

 希少糖は、今まさに何十億年の眠りから目覚めたばかり。およそ50あるという希少糖の内のたった一つの鍵が開いただけなのだ。これからいよいよ核心部に迫る研究が世界各国で始まる。その拠点としての役割を果たし、希少糖を生み出す聖地として、その存在を世界に示し続けたい香川県である。

第6回国際希少糖学会では、アメリカの企業からの質問がきっかけとなり世界的な飲料メーカーやFDA(アメリカ食品医薬品局)食品部門の長官らが参加し、熱い議論が繰り広げられた。その結果、希少糖は単糖の表示に用いられている糖類・糖質とは別のカテゴリーに表示すべきとの結論に達した。

第6回国際希少糖学会ポスターの写真
第6回国際希少糖学会ポスター

記念石碑の写真
香川大学農学部のキャンパスには、何森教授が微生物を発見した場所に記念石碑が建てられている。まさに、ここが希少糖研究発祥の地。世界的な研究の聖地となる場所である。