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【対談】東京大学 大学院工学系研究科 特任准教授 松尾 豊

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人工知能が導く地方の未来

知事 「AI※1(人工知能)」が、人の暮らしを劇的に変えると言われています。今回は人工知能研究のトップランナーである東京大学大学院工学系研究科特任准教授の松尾豊先生にお話を伺います。松尾先生はチェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー2016※2などを受賞、著書「人工知能は人間を超えるか」はビジネス本大賞審査員特別賞を受賞されるなど、多方面で活躍されておられます。お生まれは香川県坂出市で、東京大学工学部電子情報工学科に進学なさいましたが、「人工知能」には早くから興味をお持ちだったのでしょうか。

松尾 確か小学校5年生の時、両親がポケットコンピューターをプレゼントしてくれました。説明書にプログラムが書いてあり、その通りに打てば面白いように動きました。プログラムというのは自分の望んだ世界をコンピューターの中に創ることができ、無限の可能性を秘めていると感じたんです。高校時代は、受験勉強が嫌で哲学に興味を持ちました。「自己とは一体何だろうか」などと、考えれば考えるほど分からなくなり、その答えを求めてさまざまな哲学書を読みました。そして、大学時代、哲学とコンピューターという二つの世界を結合することができるのが人工知能ではないかとひらめいたのです。コンピューターを使って、自分とは何かという命題に答えを出せるかもしれないと思ったわけです。

知事 その素晴らしいひらめきがきっかけで、現在は国のさまざまな審議会委員なども務められ、経済産業省の「人工知能研究センター」企画チーム長も務めておられます。日本経済や産業にAIが及ぼす影響は、多大なものになると予測されていますが、一般には理解し難いAIの世界です。膨大なデータや画像の処理能力が格段に上がり、ディープラーニング(深層学習)を掛け合わせた結果、人工知能の世界は飛躍的に発展しているとお伺いしましたが、コンピューター自身が学習するというのは、どういう方法で行うのでしょうか。

松尾 ディープラーニングで行っていることは、一言で言えば特徴量を抽出するということです。例えば、日本のGDPを予測するのに、出生数など、さまざまな変数で予測しますが、データをたくさん与えると、うまくモデルを作ることができ、的確な予測ができます。しかし、この変数は人間が与えているわけですね。通常その変数というのは、さまざまな概念や観測事象の組み合わせでできています。例えば、猫を判断するのに、膨大な変数から猫か猫じゃないかという関数を近似するというのは、大変に難しいことです。しかし、神経細胞が積み重なって思考をしている人間の脳は、おそらく、特徴を抽出し階層を重ねるという方法で、瞬時にそれを判断しています。簡単な関数の組み合わせによって、非常に複雑な関数を近似するということが、階層を重ねることで可能になるのです。

知事 昔、統計の分野で最小自乗法というのを習いましたが、要はその変数をこれまで人間が与えていたものを、近似的にいろいろな変数を段階的に探していくようなプログラムを作り、一番決定係数の高い方程式を自ら作っていくということでしょうか。

松尾 最小自乗法をご理解いただいていると話が早いですね。深層学習の中で行っていることも、予想した出力と実際の差分をとって自乗するという最小自乗和をとって、これを低くなるように、少しずつ修正していくというようなことをやります。基本的にはそういうことですね。そうして現実世界の現象から、上手に学習できるようになるというのが、このディープラーニングです。これまでは、コンピューターの能力が追いつきませんでした。現在はその問題が解決し、複雑な関数でも学習できることが分かってきました。

知事 香川県も含め、地方は人口減少や活力の低下が問題視されています。地方のさまざまな課題の解決に人工知能は役立つのでしょうか。今、地方が活用できる人工知能とは、具体的にどういうものでしょうか。

松尾 ディープラーニングによって画像認識は、人間を超えるほどの高い精度を実現しつつあります。例えば、医療画像の診断などは、既に精度の高いものが完成しています。災害などの監視カメラや防犯カメラの画像を認識するアプリケーションも急速に進歩しています。ディープラーニングの技術とロボット技術をうまく使うと、人間が目で見ながら作業をしているのと同じようなことができるようになります。例えば、農業、建設、食品加工といった分野です。日本全体で非常に労働力が不足していますので、この自動化により、今、足りない労働力を補うことができます。いずれは各国も不足してきますから、この技術を伸ばせば次の大きな輸出産業に成長することが期待できます。地方には世界的に活躍するグローバルニッチな企業がたくさんあります。そういう企業にとっては、非常に大きなチャンスになると考えています。

知事 香川県としても、県内企業の生産効率向上はもとより、安全面での取り組みなど、「人工知能」の活用を大いに検討してまいりたいと考えております。松尾先生には、今年10月の「かがわ国際会議場」での「人工知能」の講演会をはじめ、今後もお知恵をお借りしたいと願っております。大変にお忙しいお体とは存じますが、時々は香川県にも帰ってきてくださることを願っております。本日は、ありがとうございました。

松尾 豊
(東京大学 大学院工学系研究科 特任准教授)

1975年、香川県坂出市生まれ。丸亀高校を卒業後、東京大学工学部に入学。同大学院博士課程修了。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員を経て、2007年10月より東京大学大学院工学系研究科の准教授に就任。専門分野は、人工知能、ウェブ工学、ソーシャルメディア分析であり、人工知能学会では2年間、編集委員長を務め、現在は倫理委員長を務める。10月6日(金)に香川県でAI(人工知能)に関する講演会を開催する予定。

※1 Artificial (人工的)Intelligence(知性)の略

※2 チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤーとは、日本を、世界を、動かすような新たな変化を起こした10人のチェンジメーカーに、毎年日経BP社から贈られる賞。